JAZZ LAB SEED ジャズラボシード ~サックスレッスンと音楽理論の教室(東京都文京区)~

THEORYジャズ理論

■旋法(Mode)【1】

ジャズ・プレイヤーはどうやってアドリヴ・フレーズやメロディを創り出しているのか、そのプロセスを考え、説明してみましょう!

音楽の三要素

通常の 西洋音楽【2】 では、「音楽の三要素」として、

  • 1 和声(Harmony)
  • 2 旋律(Melody)
  • 3 律動(Rhythm)

があり、この三者がそれぞれ独立した要素でありながら、互いに密接に関わり合っていることは広く認められ、さらに、 古典理論【3】 においては

「和声と旋律は必ず同一の調(key)と音階(Scale)に所属している」

ということは 暗黙の了解【4】 となっています。
特に、Adlib演奏が主体となるジャズでは、唯一の情報源であるChord Nameから、Key、Scaleを 推定【5】、Adlibのベースとします。

図による解説[1]
① Chord,Melodyは同一のScaleに所属
② PlayerにChord Nameが与えられる
③ ChordNameから調を推定

そこで、誰もがまずはChordとScaleの関係を求めてScaleStudyを始めるのですが、では、Scaleからどのように具体的Melodyを引き出すかとなると、そこに詳しく言及した文献はあまりないのが現状です。

ChordとMelody

よくある説明のひとつに、"MelodyはChordの構成音から作られる"というのがあります。
これは比較的ゆっくりしたMelodyの単純な音楽には、ある程度適用できますが、次のような矛盾を生じてしまいます。

  • 和声という概念が成立するのは15~16世紀頃であるが、旋律はそれよりはるか以前から かなり複雑なものが既に存在していた【6】

  • ChordからMelodyができるならばMelodyは全くChordに従属することになり、独立した音楽の一要素になり得なくなる。

確かにMelodyは Chordに代表されるHarmony【7】に影響を受けますが、それはKeyとHarmonyにより決定されるTonality【8】(調性)という形でMelodyにかなりソフトな制約を与えているだけなのです。 Chord NameからAdlibに至るプロセスを以下に示します。

図による解説[2]
④ 機能和声により楽曲分析
⑤ (1)Melody Playerの場合、ScaleからTonalityと旋律法により具体的Melodyを引き出す
⑥ (2)Harmony Playerの場合、ScaleからTonalityと和声法により具体的Soundを構成

旋律法(Mode)

さて、ScaleとMelodyの関係について、"Mode"の話から始めましょう!
ここではまず全く和声の存在を仮定しないで話を進めます。

一般にキーがCMajorの場合 Scale【9】は下記の図のように、

階名(Degree Name) 【10】

と表示しますが、これは和声学における表示法です。
これをMode(旋法)として表示すると、次のようになります。

C Ionian Mode 【11】

矢印がMelodyの動きを表し、

  • a) 最終的に終止する音はTonal Center【12】
  • b) Dominant、MediantでMelodyは一時的に止まることができる【13】
  • c) それ以外の音は原則として弱拍に置かれ、通過するだけで止まる事はできない
    (PassingNote・経過音)
  • d) Melodyの動きはDominantによって区切られ、下側の Tetrachord 、上側のPenta chord の 二つに分かれる【14】 DominantはTonal Center に対し、2:3と最も単純な周波数比で特徴的な動きをMelodyに与える。

それは、

  • イ)MelodyをDominantに引きつけ止める
  • ロ)MelodyをDominantで反射させる
  • ハ)MelodyをDominantから直接Tonal Center へ跳躍させる

となり、中でも(ハ)の跳躍は本来進行しにくい 跳躍音( LeapingNote)【15】 のうち最も強い進行で、特に DominantMotion【16】 と呼ばれます。

このようなDominantの働きはMelodyが動いている最中にTonal Center の存在を予言することとなり、そのModeを 特徴づける【17】 重要な機能となります。

もちろん上記(イ)(ロ)(ハ)は確率的に起こるので、法則ではありません。

また、速いMelody【18】 では単にDominantを通過してしまうこともありますが、その場合はさらにその上下のPentaChord やTetra Chord に突入したと考えられます。しかし、それでもその頻度はそれほど高くはなく、ある種、心理的なバリアーがDominantにはあると考えるべきでしょう。

  

REGION

REGION =(近親調からの借用Mode) 【19】

実はここまでは音楽理論書の旋法の項を調べれば出ています。 しかしこれだけでは、ド、ミ、ソ、の三音を中心にした単純なMelodyのみになり、実際の音楽の多様なMelodyが全く説明できません。
そこでこれをKey of Cmajor のScale Noteを使用してできる他のMode【20】に拡張してみると、次のようになります。

■Key C に含まれる見かけ上の他のMode:REGION

Region
近親調からの借用音列(借用できるのは長調か短調で他の教会旋法は借用できない)
×
そのModeのScaleNoteと違うので、Key of C では使用できない経過音(HarmonyのAvoidNoteとは別)。

Tetra Chordの経過音は全て使用できる。【21】

これらはKey of Cmajor の時に用いられ、転調しているのではないので"見かけ上のMode"となり、単なる"音型"として扱います。

またこの6つの音型はKey of Cmajor にとって最も近い関係にある近親調をなしているグループになっています。

そこでこれらの音型を"近親調からの借用音列である "Region"【19】 と呼ぶことにします。
Cmajor Scaleでは、C自身のモードだけではなく、その近親調のモードをも ScaleNoteを逸脱しないかぎり【22】 自由に使用できることになります。

実際の多様なMelodyは、すべてこの6つのRegion が刻々と変化し、組み合わさって成立していると考えることで説明できます。
この時重要なのは、

● Melodyが常に何らかのKeyのModeであるというStyleを保ちつづけている

ということです。さらに、

  • Chordが直接Melodyに反映されるという隷属的状態から解放され、MelodyのStyleの独自性を確保できる
  • 同一のKeyの内部であれば、Chordの変わりめもなめらかに説明できる。
    また逆に異なるChordをひとつのRegionで貫く、というAdlibの世界では常識であっても和声理論では困難なことが簡単に説明できる
  • HarmonyとMelody本来の関係を 機能和声【23】 から生ずるTonality【8】 という形で明確にすることができる【24】などの利点があります。

この考え方は

  • Scaleを変更した場合
  • Scaleを想定しない音楽 【25】

さらには

  • Regionを古典音楽のMajorKey , MinorKeyの音列から他の種のModeに拡張
  • Blue Note Mode (黒人音楽)などの民俗音楽
  • 通常のMode ではない、 Serie(セリー)【26】 のような幾何学的音列にまで拡大解釈したModernJazzでも有効な考え方です。

具体的なAdlib Phrase では、

  • Region がどのように具体化され (Fragment)【27】 、どのように組み合わされるのか
  • Region には具体的にどのような装飾音が使われるのか
  • Region とRhythm(TempoやSyncopation)の関係は?

といった問題はまた機会があればお話ししましょう。

Slant Line【28】
Melody Shape【29】
Call & Response【30】

<装飾音、音の動きの記号>

  • D.R. Delayed Resolve
  • D.R.* Delayed Resolve 発展型
  • E.N. Escaping Note
  • D.M. Dominant Motion
  • App. Diatonic Approach Note
  • Ch.App. Chromatic Approach Note
  • Ch.Pass. Chromatic Passing Note
  • P.N. Diatonic Passing Note

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